ぼくのヒーローR2 第3話 ひみつのにんむ


ゼロの説明では玉城は理解できないらしく、は?あ?と、間抜けな声をあげた。

「つまりだ、たかだか一兵卒が皇族に逆らい、恥をかかせたらどうなると思う?しかも皇族はこのエリアにおいて軍部も束ねる存在だろう?つまり、軍の上層部の命令を拒否したことにもなる。イレブンにそれだけの事をやられて、はいわかりました、で終わるわけがないだろう?公にはならないだろうが、すぐに処刑されて終わりだ」
「・・・何だよそれ・・・」
「 " せい " か " し " かの にたくだ。だからすざくは、いきることを えらんだだけに すぎない。たまき、これが ぶりたにあという くにだ」

ゼロの言葉に、玉城は悔しげに顔を歪めて俯いた。
スザクは生か死かどちらかしか選択出来ない状況だと解っていなかったのだろう。強者の発言は絶対。弱者は、拒否権すら与えられない。それが弱肉強食を国是とするブリタニアのやり方だ。
たとえ、生まれながらの強者である皇族であったとしても、弱者と判断されれば切って捨てられる。道具として扱われる。それがブリタニアだ。

「今回の件は、コーネリアを始め多くの者が止めたが、それでもお飾りは止まらなかった。責めるなら、スザクではなくあのお飾りを責める事だ」
「・・・だな、よくわかった」

周りの者も、悔しげに眉を寄せていた。
少なくても、これでスザクは裏切りもの扱いされないだろうし、スザクを許せないと玉城達が暴走し暗殺という話が出ることもないだろう。
ユーフェミアには悪いが、泥はすべて被ってもらう。
ルルーシュとナナリーのために。
しばしの沈黙の後、再びゼロが口を開いた。

「こんかい、あつまってもらったのは そのことではない」

てっきりスザクの騎士の話だと思っていた面々は驚き顔をあげた。

「らくしゃーた」
「病院は押さえたわ。明日の朝から、明後日のお昼まで」
「そうか」

よくやったとゼロは頷いた。
・・・まあ、実はその病院にゼロも一緒に行って、医者、看護師他全員にギアスをかけたのだから当然の結果なのだが、それを教える訳にはいかない。

「病院?もしかして、原因が解ったのか?」

この若返りの原因が。

「いや、まだ げんいんは ふめいだ」

途端に、周りから深いため息が聞こえた。

「こんかい あつまってもらったのは ほかでもない。こどもたちの よぼうせっしゅのことだ」

予防接種。
予想外の内容に、皆の目が点になった。
そこから先の説明を、ゼロはラクシャータに任せた。

「ゼロを含め、子供たちを病院へ連れて行くのは、インフルエンザの予防接種と精密検査のためよ。最新鋭の機材で一回調べることにしたの」

ここにある機材は7年よりも前のもの。手を入れ動くようになったものも多いが、放置されていた間に故障し、直らない物もある。ならば、最新鋭の機材がそろっている病院で一度徹底的に調べることにしたのだ。

「・・・それと、我々が呼ばれたのと一体どんな関係が」

4日後に、リフレイン工場襲撃の任に当たる藤堂は眉を寄せた。

「藤堂、あんた解ってないわね。ゼロとカレンはいいわよ?大人しく検査も受けてくれるでしょう。でも、他の連中はどうかしらね?」

他の連中。
扇やディートハルトといった黒の騎士団の上層部・・・だった者たち。 彼らもまた、ゼロと同じく子供に戻っていた。
今は、昼寝の時間ということで、全員旧カラオケボックス内でお昼寝中だ。カレンの母親がカレンと共に見張っている為、今ここに来る事はない。
ゼロとカレンは黒の騎士団としての思いも強く、幼いながらも自分を律しているが、他の者達は完全に子供に戻っていた。大人だった頃の記憶はもちろんあるが、自分たちは子供なのだから、大人が守るべき。子供が何かしても怒られるだけ。犯罪にはならないし、許してもらえる・・・という前提で動き回るため、普通の子供よりもはるかに性質が悪いのだ。知識がある分悪戯も悪質で、カレンの母親が居なければ監禁していたかもしれないレベルだった。
これが戦後に生まれた子供ならここまで問題にはならない。
今の子どもたちは、理不尽な環境で育っているため、子供だから罪にならないとか、怒られるだけだなんて考えはない。ナンバーズである以上ブリタニア人の機嫌を損ねれば、殴る蹴るは当たり前。子供であっても罪を犯せば即刑務所行きだ。
だが、ここにいる者たちは全員戦前生まれで、当時小学生だったのはゼロとカレンだけ。他は高校生以上だった。躾は別として彼らは小学生時代は親に甘やかされて育ったため、当時のような扱いを求めてくるのだ。
それだけではない、世間には秘密にしている事を、自分たちだけが知っていることを、誰かに話したくて、自慢したくてうずうずしている。

自分たちが黒の騎士団だと言うこと。
本当は大人なのに子供に戻った事。
黒の騎士団には秘密のアジトがある事。
ゼロも子供に戻っている事。
ゼロが枢木スザクと仲がいい事。

彼らが言いたがっている事は、上げたらきりがない。
そんな子供たちを、この地下から地上にあげ、しかも多くの人が通院し、入院している病院へと連れて行くのだ。子供の戯言と鼻で笑われるならいい。だが、イレブンの子供達が大病院にいて、しかも全員精密検査をしている事に疑問をもたれたら?念のためにと通報されたら?不安は尽きない。

「別々に連れて行って検査する事も考えたわよ?でも、そう何度もブリタニアの病院が許可を出すと思う?」

主義者が協力してくれるといっても、それはあくまでも極秘にだ。だから秘密裏に全てを終わらせなければならない。日数をかければかけるほど気付かれる恐れも出るし、カレンの母親への負担を考えれば、1度で終わらせた方がいいに決まっている。全員一斉にとなれば検査も流れ作業になるため、その分時間も短縮できるし、最大で明後日の昼まで借りたのだから、その前に終わればさっさと撤退出来る。
つまり。

「いいか、これはごくひのにんむだ。こどもたちの けんこうしんだんの ごえいを、ここにいる ぜんいんで おこなう!」

明日・明後日の任務:子供たちの健康診断
4日後の任務:リフレイン工場襲撃
この日の会議は、既に胃が痛くなり始めた大人たちの悲痛な表情で幕を閉じた。

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